「太極拳は武術です」と説明をすると、「エッ、武術なんですか!?」と言った感じの反応が意外に多くあります。太極拳の「拳」という字は、武術・武芸も意味します。
中国武術の特徴を表すとき、3つの効能と3つの表現があるといわれています。
- 「健身」:体を健康に保つこと。
- 「修身」:武徳・道徳。
- 「防身」:体を護ること。防身には、 敵の攻撃だけでなく病気から体を護るという意味も含まれています。
- 体育スポーツとしての 「競技」
- 伝統的な健身法としての「伝統」
- 武術の技法・技術としての「攻防」
一般に中国武術というとカンフー映画のめまぐるしく動きまわるアクションの影響からか、スピードとパワー、 速さと強さのイメージが強いのですが、 太極拳はそれとは全く反対で、 静かでゆったりとした柔らかい動作ゆえに、 踊りや舞のように見えると言われます。
転ばぬ先の太極拳 | 運動効果 (健身・ 養生作用)
太極拳の運動効果には、
- 筋肉への効果
- 骨格への効果
- 心肺機能への効果
- 内蔵への効果
- 精神面の効果
- 減量の効果
- 脊髄および軟部組織への効果
- 自己治癒能力の効果
等があげられます。
これらの効果は、基本的に、 太極拳のリラックスした状態で
- ゆっくりした
- 中腰姿勢による
- 繰り返し (反復)
の動作が機能し作用します。
ゆっくり動く (動ける) ことで意識的な全身運動が可能となり、全身の筋繊維 (特に下半身) を非常に効率よく動かすため、足腰の筋肉が強化されます。また、足の裏で重心を感じながらゆっくり足を運び、片足で体重を支えている時間が、日常生活の歩行に比べて長く行うことになります。 そのことにより、深部感覚が高められ、バランス年齢が若返り、平衡感覚を養うことができます。 また、転倒防止の運動にもなります。
アメリカでは医学専門誌や雑誌に、老化を防ぐ予防法や転倒防止の方法として、太極拳の効果を検証している論文も発表されています。ゆっくり中腰姿勢で動くことで筋肉の緊張が長時間持続しながら多くの筋肉を使い、平素はあまり用いない筋肉や関節を屈伸したり、ひねったりするので、筋肉を柔軟にし、関節の動きを円滑にするとともに、身体各部を均衡させ、調和させるのに役立ちます。 また、筋収縮のミルキングアクション (乳搾り) 作用により、血流を高め、血圧を安定させます。
さらに、筋肉の働きで骨に荷重がかかると、その荷重が骨を作る骨芽細胞を刺激して働きを活発化させます。そのため骨の形成が促され、 骨粗鬆症にもなりにくい強い骨が作られます。また、ゆっくりとした一定のリズム運動や反復動作は、エンドルフィン(一種の体内麻薬 無害) や、最近注目を集めているセロトニンという神経伝達物質が分泌されやすくなり、「気持ちよさ」 を作り出し、情緒面に良好な効果をもたらします。
セロトニンは食欲を押さえる神経伝達物質で、太極拳を始める前は強い空腹感があっても練習の後では空腹感が消えていることを太極拳愛好者はよく経験します。ゆっくりした動きは、 赤筋が多く使われるアイソメトリックトレーニングとなるため基礎代謝が高くなります。これらのことから、減量の効果が期待できます。 中腰姿勢でゆっくり動くことにより、腹圧が高まり自然な深呼吸や腹式呼吸と逆腹式呼吸が行えることから、心肺機能が増進し、血液性状が良好に保たれる結果、 自己防衛免疫能力も増え、病気にかかりにくく、また、かかっても回復が早い体質に改善されます。
太極拳は老子の影響から 「水は万物を利して争わず」 「流れる水は先を争わない」 等の 「水」 の性質や、「円」、「球体」の性質などの意義を説いており、 人生の哲学にも通じるものが数多く含まれています。 太極拳は、力を使わず柔らかく動くために、老若男女だれでもが行うことができて、 練習する人に等しく心身の健康をもたらすことができます。
水と同じように万人を利することができるもので あり、だれでも始められる幅広い入り口があり、極めれば深い道と高い頂があり、 多くの価値を持っているものといえます。この素晴らしい太極拳を普及向上・発展させることを目的に、 NPO 法人神戸太極拳協会では、勤労市民センターや区民センターの講座にも講師を派遣させていただいています。
これらの講座に参加して、 太極拳を気軽に楽しんでいただき、 魅力を感じていただければ幸いです。